RIN forest
- 渡辺晴子
- 2017年5月31日
- 読了時間: 3分
* * * *
森があるんだ あの森が
あの森を通り抜けないと
もう一度通り抜けないと
生き返らないんだ
* * * *
萩尾望都「残酷な神が支配する」
よりのオマージュです。
「残酷な神が支配する」を初めて読んだ頃私は小学生、10巻くらいまで出ていたかと思います。
子供の私には少々刺激的な内容でしたが、どんどん引き込まれジェルミとイアンの心を考え、追いかけ、
作品の ’何か’ と、自身の ”何か” がシンクロしていたことに、当時の私は気がついてはいませんでした。
この作品をきっかけに、萩尾先生の作品に触れ、魅了され、すっかりファンに成り果てた頃、
私は萩尾先生とお会いするという幸運に恵まれました。←「残酷な神が支配する」の連載が終わり、その一・二年経った頃だったと思います。
憧れの先生を前に手足が震え、汗をかき、緊張のあまり初めての会話は全く覚えていません。
何度かお会いするうちに始めの頃のような緊張が取れ、図々しくも私は作品について質問をさせていただいたことがありました。「残酷な神が支配する」のような作品をどのようにして書くことができたのですか?心理学や何かの勉強をなさったことがあるのでしょうか?イアンの忘れていた過去はインナーチャイルドのようでしたし、心の傷の再生、許し、許されるという暗示は、宗教などのようですし、どのようにして(他のものからどのような影響を受けて)作品が出来上がったのでしょうか?
といったような内容だったと思います。(今の私があの頃の私と出会っていたら、なんと失礼な質問をしたのかと怒鳴りつけたい恥ずかしい気持ちです。。。)
トーマも、訪問者も、メッシュも、マージナルも好きですが、残酷な神が支配するが一番好きですと、お話ししてからの下りだったと思います。
その時に先生は、ご自身のお父様のお話をしてくださいました。
自身の生き方を認めてはくれない父。けれどもその語りに恨みや憎しみはなく、そうであったという事実を、幼少期の体験とともに話してくださいました。
その質問をし、語りを聞いていた当時の私は、
先生に ’なぜ’ その質問をしたのか、全く気がついていなかったのですが、
先生は ’なぜ’ 私がその質問をしたのかわかっていらっしゃったので、そのお話をしてくださったんですね。
私がこの作品を好きな(惹かれてしまう)理由と、
先生の話された世界が同じだったという ’その’ ことに気がついたのは、ずっとずっと後になってからでした。
その質問をした当時の私は、きっと先生から、
ブラッドベリーやジャン・コクトーのような名前を聞きたかったのでしょうし、
シュタイナーやらブロイヤーやらユングを知り・学び、あの表現に至ったのだ。
と、聞きたかったのだと思います。
「残酷な神が支配する」は、さまざまな愛のかたちがあり(先生の作品の人物は皆愛に溢れています。)、
ピックアップされるのは親から子への支配的な愛。(それを残酷な神と呼んで良いのではないかと思います。)
すべての登場人物の内面の投影を関係者同士で行いあいながら、
絡み合う世界の中で、愛ゆえに愛しかたの相違と恐れから、心壊れた少年の魂の再生を描いていった物語です。
「森」の描写が度々登場しますが、この森は母の胎内へ戻ってゆく象徴だと思っています。
森はすべてを見ていて、そして沈黙しているんです。この森に迷い込んで抜け出せた時に生き返れるといっているのですが、
沈黙した母に殺されたと心の奥底で思っているのは誰なのでしょうね。
誰かと、
「残酷な神が支配する」を
考察ではなく、
自身の体験とともに語り合いたいものです。
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